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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)46号 判決 1981年2月05日

控訴人(原告) ミキ観光株式会社

被控訴人(被告) 富田林税務署長

訴訟代理人 坂本由喜子 太田吉美 外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人が昭和四八年五月三一日付で控訴人の昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの事業年度分の法人税についてした再更正処分及び過少申告加算税決定処分のうち、所得金額五六五七万五二八七円を超える部分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張、証拠

当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決三枚目表八行目「から受け取つた土地賃貸料」を「に対し本件土地の一部である黒岩牧場の土地を無償使用させたことによる賃貸料相当額」と訂正し、同一一枚目裏四行目「要件として」の次に「いる」を挿入し、同一五枚目表一二行目「第一六号証、」の次に「第一七号証」を挿入し、末行「成立は認める、」の次に「第四、第五号証」を挿入し、同裏二行目「不知」の次に「(同第七号証については原本の存在及び成立不知。)」を挿入する。

一  控訴人

1  本件土地譲渡経理の時期について

原判決は控訴人が本件土地をピーエル農場に確定的に譲渡した時期は昭和四五年三月三一日であると推認されるとしているが、もしそうであれば、連続番号の付してある甲第五号証の一ないし六の伝票全部を書きかえたことになるが、控訴人の担当者にそこまで周到な配慮があつたとは考えられない。さらに、甲第五号証の二に記載されている昭和四五年三月三一日支払期日の約束手形(甲第一〇号証)の裏面には銀行の手により同月二六日の日付印が押捺されており、右手形の振出日がそれ以前であることは明白である。したがつて、売買のされた日は、甲第五号証の二の伝票の作成日であり、かつ、甲第一〇号証の約束手形の振出日である昭和四五年三月一九日であると解すべきである。

2  本件土地の時価について

原判決は近鉄の買収価額が結局坪当り三〇〇〇円で決定をみたことに心をうばわれ、早くからその価額が決定をみ、しかも地元の所有者らの間で知られていたに違いないという予断を持ち、証拠の価値判断を誤り、右予断にそう証拠のみを採用し、事実を誤認している。

昭和四五年三月一九日の時点では、上野市の方で坪当り二五〇〇円なら地元の了解は得られるとの感触をもつていて、近鉄に対し坪当り三〇〇〇円の申入れはしておらず、地元の所有者らは、確実なことを知りえず、成行を見守つている状況にあつたのであり、坪当り三〇〇〇円の時価は形成されていなかつた。坪当り三〇〇〇円の時価が形成されたといえるのは、昭和四五年五月八日の新聞報道(乙第一〇号証)以降である。

被控訴人は、近鉄が昭和四四年二月二日伊賀パブリツクゴルフ場の増設に際し訴外深井武二から保安林九九一平方メートルを坪当り五〇〇〇円で買つたと主張するが(乙第二九号証)、右山林は近鉄が昭和三五、六年頃ゴルフ場用地として周辺の土地を買収した際に深井武二がその売渡しを拒否して近鉄の買収地の中に取残されていたもので、近鉄としては右ゴルフ場の将来の設営のため是非ともこれを取得する必要があり、深井武二の言値である公簿坪当り五〇〇〇円という破格の値段で買受けたもので、きわめて特殊な事情のもとに形成された価額であつて、売買当時の周辺土地の時価を示すものではない。

学校法人日生学園は本件土地の売買時点より約二か月前の昭和四五年一月一九日訴外藤井岩太郎より本件土地の近辺にある上野市上林字山田二一三四番山林二二九七平方メートルを代金一〇五万一七〇〇円で買受けているが、これを公簿坪当りに換算すると一五一三円になり、右価額がその当時における近辺土地の時価を示している。

また、右事実は、近鉄の買収対象地域の土地所有者が昭和四五年四月九日ごろ近鉄と上野市との間で買収価額が坪当り三〇〇〇円と決定されるまでは、いくら位で買収されるかを知らなかつたことを如実に物語つている。

3  控訴人の本件土地の時価の認識について

原判決は、控訴人が本件土地を株式会社ピーエル農場に売渡した当時控訴人の代表者御木道正、経理部長植村恒吉は、本件土地のうち原判決別表(一)番号1ないし11の土地の時価が坪当り三〇〇〇円であつたことを知つていたとしているが、当時まだ坪当り三〇〇〇円の時価は形成されていなかつたから、控訴人代表者らにそのような認識があつたはずがない。東義一は御木道正の隠退中富田林市に度々来ていたが、それは本件土地内を通る農道を寄付して貰う件のためであつた。控訴人が近鉄へ本件土地を売却した経緯は、まず近鉄が御木道正に本件土地の売却方を求め、ついで御木道正が東義一に近鉄への売却交渉を依頼したというのが真相であつて、その時期は近鉄が坪当り三〇〇〇円による買収を開始した後のことである。

4  ピーエル農場の賃借権について

被控訴人は、控訴人がピーエル農場に本件土地の使用を認めたことに対し、控訴人に賃貸料一八五万五四八〇円の収入額を認定して課税したのであるから、この法理は使用関係終了の場合にもつらぬいて、本件土地につき利用権負担による価値減少を認めるべきである。

二  被控訴人の主張

1  控訴人の主張は、すべて争う。

2  乙第一八号証(和田和夫に対する聴取書)に「近鉄が伊賀ゴルフ場を九ホール増設するについて昭和四三年から昭和四四年に工事をしたがその時の土地の買取価格は坪当り三〇〇〇円でした。」という供述がある。また、近鉄が伊賀パプリツクゴルフ場の増設に際して交した売買契約書(乙第二九号証)によれば、昭和四四年二月二日に公簿坪当り五〇〇〇円で契約されて同日金銭が支払われている例すらある。

3  控訴人は本件土地をピーエル農場に売却するとき上野市南部ニユータウン計画すら知らず、東義一から時価に関する何らの情報も得ていなかつた旨主張するが、乙第一五号証によれば、植村恒吉は別件刑事事件の公判において、「近鉄との土地売買の話は昭和四五年初めか同四四年暮頃きいていた。土地売却の話は初めは社長と東義一が話を進めており、社長から売買の折衝は東義一を仲介人として委せてあるときいていた。その時期は昭和四五年初め頃であつた。売買の値段等契約の内容については社長や東から度々きいた。」旨証言している。この証言の信憑性は高い。

三  証拠<省略>

理由

一  当裁判所は、当審における証拠調の結果を参酌しても、控訴人の本訴請求は原審の認容した限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する(ただし、原判決一七枚目裏一二行目「しかし、」の次に「原本の存在及び」を付加し、同一九枚目表末行「(ク)、」を削除し、同三一枚目表一一、一二行目「成立に争いがない」を「前掲」と訂正し、原判決添付別表(二)の下から五行目「その他の寄付金額の内訳」の前に「被告の主張」を付加する。

二  原判決一六枚目表八行目から同裏四行目までを削除し、同一七枚目表二行目から一二行目までを次のとおり訂正する。

「3 そして、ここにいう時価とは、客観的な市場価格をいい、取引当事者がこれを認識していたと否とを問わないものと解すべきである。ところで、法人税法三七条六項によれば、低額譲渡の場合であつても時価との差額が当然に同条五項の寄付金の額に含まれるものとされるのではなく、時価との差額のうち「実質的に贈与したと認められる金額」が同条五項の寄付金の額に含まれるものとされるのであるが、「実質的に贈与したと認められる」ためには、当該取引に伴う経済的な効果が贈与と同視しうるものであれば足りるのであつて、かならずしも譲渡者が贈与の意思を有していたことを必要とせず、したがつて、時価との差額を認識していたことも必要としないと解するのが相当である。もとより、例えば、譲渡者が商取引に拙劣なため時価を下回る価額でしか譲渡できずそのため通常得べかりし利益を得ることができなかつたときのように首肯できる理由がある場合は、実質的に贈与したとは認められず、譲渡者が時価を認識しながら差額を贈与する意思でことさらに低額で譲渡した場合は、その差額を実質的に贈与したものと認めるべきは当然である。株式会社が時価の二分の一以下で所有資産を譲渡したような場合は、その差額を認識しこれを贈与する意思を伴うことが普通であると思われるが、仮に右認識、意思を伴わなかつたとしても、それだけの理由で法人税法三七条六項の規定の適用が排除されるものではない。」

三  甲第五号証の一ないし六(ミキグループ入金伝票)によると、右各書証の右肩に付された番号が一連番号となつていることが認められるが、原審証人植村恒吉の証言によれば、これらの入金伝票は同人において任意に作成しうるものであることが明らかであつて、同証人の証言及び乙第四、五号証と対比するときは、右一連番号になつている事実から直ちに甲第五号証の二の日付が正確なものであると結論することはできない。また、甲第一〇号証(振替出金票と題する株式会社ピーエル農場振出、金額五〇〇万円、満期昭和四五年三月三一日の控訴人宛約束手形)によると、その裏面の控訴人から株式会社三和銀行に対する裏書の日付が「昭和四五年三月二六日」と記載されていることが認められるが、同証人の証言に照らし、右事実から直ちに右日付の日に前記手形が控訴人から同銀行に裏書交付されたものと結論することは相当でない。

四  原本の存在及び成立に争いがない乙第三〇号証の一によれば、朝日新聞昭和四五年一月一八日(日曜日)三重版に、「今月中に全面買収へ 上野市久米山土地所有者集め交渉」との見出しを付し、「上野市都市開発部は、県住宅供給公社が同市久米山(二十六万四千平方メートル)に計画している分譲住宅千戸の建設をスムーズに行うため十六日、地元の市議、区長、農業委員、土地所有者代表らを集めて今後の土地買収方法について打合わせた。」等の記事が掲載されたことを認めることができる。右記事が、成立に争いのない乙第一、二号証、原本の存在及び成立に争いのない同第八、九号証とあいまつて、上野市南部に土地を所有する地主に地価の上昇を期待、認識させる材料となり、また、土地ブローカーの活躍を促し、その結果本件土地を含む上野市南部の土地の価格を急速につりあげるに至つたものと認められる。

成立に争いのない甲第一六、一七号証によれば、藤井岩太郎は昭和四五年一月一九日その所有にかかる上野市上林字山田二一三四番山林二二九七平方メートルを代金一〇五万一七〇〇円(三・三平方メートル当り一五一〇円)で学校法人日生学園に売却したことを認めることができるが、右売買は、本件土地の売買が行われた時点よりも約二か月余り前に行われたものであり、しかも一つの事例にすぎず、本件土地の譲渡時における時価が三・三平方メートル当り三〇〇〇円であつたと認定することを妨げるものではない。

五  成立に争いのない甲第一号証及び前記認定事実によれば、被控訴人は、控訴人において本件土地中株式会社ピーエル農場に使用を認めていた黒岩牧場の土地の賃貸料相当額につき益金処理をすべきであるという見地から同号証の更正処分をしたものにすぎず(したがつて、甲第一号証の更正の理由中「賃貸料」とあるのは賃貸料相当額の趣旨に解され、「賃貸料一八五万五四八〇円」の実質は益金処理をすべき贈与であるが、係争年度における控訴人の所得金額が少くとも五六五七万五二八七円であることは当事者間に争いがなく、その中に右賃料相当額一八五万五四八〇円が含まれているので、これを寄付金として計上することはしない。)、黒岩牧場の土地について賃貸借の存在を認定したものとは認められないから、本件土地につき賃貸借負担による減価を認めないことと矛盾しているとはいえない。

六  前記認定事実及び成立に争いのない乙第一一号証、同第一四ないし第一六号証、原審証人植村恒吉、同吉重丈夫、同板垣欽一郎の各証言を総合し、これに弁論の全趣旨を斟酌すれば、昭和四五年三月一九日から同月三一日に至る間の本件土地(原判決添付別表(一)記載の土地)公簿面積合計六六万七五一一平方メートルの時価は、上野酪農業協同組合の使用による減価分一五〇〇万円を差引き五億九一八二万八〇〇〇円であつたところ、控訴人代表者代表取締役御木道正並びに控訴人及びその関連会社である株式会社ピーエル農場や同株式会社フードサプライの経理を委ねられこれを担当していた植村恒吉は、昭和四五年三月三一日、本件土地の時価がその当時三・三平方メートル当り三〇〇〇円であることを知りながら、控訴人から直接近鉄に本件土地を売却した場合に控訴人に課せられる多大の法人税を免れ、かつ、右関連両社の欠損を補填する目的で本件土地を控訴人から株式会社ピーエル農場に対し時価よりはるかに低廉な価額一億七三四八万八五三五円で譲渡したことが認められるから、右五億九一八二万八〇〇〇円から一億七三四八万八五三五円を控除した差額四億一八三三万九四六五円は、控訴人から株式会社ピーエル農場に実質的に贈与したものと認めるのが相当である。

したがつて、右差額四億一八三三万九四六五円に当事者間に争いがない別口寄付金三二万五〇八二円を加算すると四億一八六六万四五四七円となり、このうち原判決添付別紙(二)の計算による損金算入限度額五九七万四九八円をこえる部分四億一二六九万四〇四九円は、法人税法二二条二項、三七条二項、五項、六項により、控訴人の昭和四四年四月一日から昭和四五年三月三一日までの会計年度の益金の額に算入すべきである。そうすると、控訴人の右会計年度における所得は、控訴人の認める所得金額五六五七万五二八七円に右四億一二六九万四〇四九円を加えた四億六九二六万九三三六円となる。

七  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川添萬夫 菊地博 大須賀欣一)

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